ライターのための書評No.?『漢字・仮名まじり文の読みやすさーー表記面からみた読みやすさの条件ーー』
はじめに
文字を開く、漢字は適当な割合で仮名に「ひらく」と分かりやすい。
どこかで聞いたことがあると思う。
また、文中の漢字率は20~40%くらいがもっとも読みやすい。
こちらもどこかで耳にしたかもしれない。
漢字率チェッカーを活用すれば漢字率の調整は簡単にできる。
しかし、単純に漢字の使用率を調整したところで、小難しい言葉を使えば読みにくくなるし、「而も」や「ゆでたまご」など漢字または仮名にすると気持ち悪くなる表現もある。
もし、漢字の使用率が読みやすさに直接関係ないとすれば、何が文章の読みやすさに影響するのか。
この問いの1回答になるのが、小山内陽子氏の『漢字・仮名まじり文の読みやすさーー表記面から見た読みやすさの条件ーー』(以下、本論文)だ。
その内、漢字の割合ではなく使う言葉(用語)を変えて実験している前半部分を紹介したい。
最後に本論文の内容が文章を書く上でどう活かせるかを考える。
なお、論文の引用方法などルールから外れたことをしているが、個人の備忘録と思って見過ごしてほしい。
(※)引用元
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/4767/files/8.pdf
第1節、先行研究とその問題点
従来の研究では、文の長さと漢字の割合が読みやすさが読みやすさの指標とされていたという。
堀川直義氏、平井昌夫氏、安本美典氏の言説から、
「漢字の割合は多すぎても少なすぎても読みにくく、適当な割合で書かれているのが読みやすい文章だ」
と研究成果をまとめている。具体的には、文中の30%前後が「適当な割合」とされている。
ここで、小山内氏は「漢字の適当な割合という形の基準設定はどこまで有効か」と、先行研究の問題点をあげた。
そもそも、漢字には「漢語に漢字」「和語の中の漢字」「混ぜ書きで漢字が使われる」など、様々な使い方がありそれ次第で読みやすさが大きく変わるのではないか、と指摘する。
この点を検証するため次の実験を行った。
第2節、実験の概要
実験の内容は次の通り。
大学生と高校生の計61名を対象に、『近代日本文学思潮史』の一節を次の1~3の条件で順番に黙読させる。
①、漢語を平仮名書きにし、読みやすいとされる漢字率に直した文章(漢字率32.7%)
②、漢語の多い文章(原文、漢字率42.5%)
③、漢語を和語に書き改めた文章(漢字率39.8%)
その後、対象者に一番読みやすい感じた文章と、文章の主旨に最もふさわしいと感じた文章を①~③の間で選択させる。
また、同時に文章の主旨を書かせるように指示し、理解しながら文章を読ませるようにして、各自の読了時間も記録させた。
結果は以下のとおり。
表1 一番読みやすいと感じた文章、文章の主旨にふさわしいと感じた文章
漢語ひらがな書き文(①) | 漢語文(②) | 和語文(③) | |||||
読みやすい | 0人 | 17人(27.8%) | 44人(72.2%) | ||||
主旨にふさわしい | 1人(1.5%) | 39人(63.9%) | 21人(34.5%) |
表2 平均読了時間、最大読了時間、最小読了時間
漢語ひらがな書き文(①) | 漢語文(②) | 和語文(③) | |||||
読了時間 平均 | 2分28.8秒 | 1分48.9秒 | 1分36秒 | ||||
最大 | 5分10秒 | 3分30秒 | 3分10秒 | ||||
最小 | 1分10秒 | 55秒 | 45秒 |
第3節、考察と結論
小山内氏が取り上げた実験の結果を箇条書きにすると次の通り。
特に重要な内容は太字にする。
1、①を分かりやすいとした対象者が一人もいなかった一方で、②を分かりやすいとした割合が約30%であったこと
2、①と②の読了時間には40秒ほどの差が生じていること
3、②と③の読了時間の差は13秒ほどなので、①がいかに読みにくいかがわかる
4、1~3より、漢語は漢字を用いた方が読みやすい
5、②と③を比較した場合、漢字率は2.7%に過ぎないが、読了時間は13秒短く③を読みやすいと感じ対象者は72.2%に上る
6、5から、漢字率ではなく、漢語や和語と言った使われる用語の分かりやすさが、文章の理解のしやすさに直結する
7、主旨にふさわしいか、つまり内容を深く理解するためにどのような表記法が妥当か、については②が最も多かった
8、7は原文に漢字が多いことと、『近代日本文学思潮史』という主題を論じるには漢語がふさわしいと思う対象者が多かったからだ
以上から、小山内氏は「適当な漢字率というのは、文章を理解する意味的符号化の際には、直接的に関与する要因ではないことが推定できた」と結論付けた。
また、漢語(②?)と和語(③?)を比べると和語の方が読みやすいという結果が出たとも言及している。
ここから小山内氏は「読みやすい漢字仮名まじり文にするには、平易な用語を用いることがまず必要で、次の段階として漢字のまじり具合を検討すべき」と提言した。
おわりに
最後に私がこの内容から、何を学んだかをまとめたい。
まず、一番大事なのは平易な言葉の使用を考えてから、漢字の使用率に目を向けるということだ。
漢字の使用率については文章が完成してからの見直しに確認するくらいが良いのではないか。
次に、平易な言葉を選ぶうえで漢語→和語への置き換えは1指標となるのでは、と感じた。
「わかりにくい」と感じた単語は、類語辞典を見るなりして和語に置き換えられないか考えるくらいしてもいいと思う。
時間がないときは、漢語→和語ができなければ妥協しちゃうとかもいけるんじゃないかなあ。
ちなみにこの文章の漢字使用率は35.6%らしい。知らんけど。