茶摘みの歌詞はすごすぎる

はじめに

 

唱歌『茶摘み』の歌詞ってすごくない?っていう話をしたい。
今回は1番のみに絞って解説する。

正直こういう文章書けるなら、小説家にもなれると思う。
ぜひお付き合いください。

 

夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘みぢやないか
あかねだすきに菅(すげ)の笠

 

 

・「夏も近づく八十八夜」

すごいポイント1

夏ってのがすごいと思う。
「梅雨も近づく」だったら歌うのをやめたくなる。
「春も深まる」だといまいち温度感とか季節感が分からなくなる。

ここで「夏も近づく」だから、少し暑いような、半そでか長袖か迷いそうな温度ってわかる。しかも天気良さそうなのもすごい

すごいポイント2

ここで「夏も近づく」の「も」を見てほしい

「夏は近づく」っでも「夏が近づく」でもないのがすごい。
この2つだと、「夏」が歌詞の中で強くなっちゃうんだよね。
季節感分かってくれれば、そこで「夏」は歌詞から退場してくれていいもんね

現代風にいうと「夏の近づく」なのかもしれないけど、やっぱり歌い上げるときは「も」の方がしっくりくるなあ。
理由は説明できない。

 

・「野にも山にも若葉が茂る」

すごいポイント1

「野にも山にも」
歌い手が外にいることを示す一節。
しかも「野」と「山」なので、町や村でも田園でもない。
こう、土と砂利でできた田舎道を歩いてるように感じないだろうか?

 

すごいポイント2

「若葉が茂る」
格助詞「が」の登場。
「が」は前後を強く結ぶ働きがある。
視点をズームインして、「若葉」と「茂る」に焦点を当てている。
若葉の色は薄緑が普通だろうから、茶葉とかお茶の色を連想させる。

また、茶葉は若葉のうちに摘むのが良いとされているから、次へのつなぎの役割を果たしている。

 

・「あれに見えるは茶摘みぢやないか」

すごいポイント

「あれに見えるは茶摘み」
ここで係助詞「は」が出現。これは文の主題を表す助詞だ。
「あれに見える」ものが「主題」、それは「茶摘み」と、ここまでとことんじらしている。


短い歌詞の中でここまで主題を我慢できるのはすごい。

 

んで、なんでこんなことができるのか。
これは、タイトルが「茶摘み」だからだと思う。
例えば、格好つけて「八十八夜」とか「摘まねばならぬ」にしたらこうはいかない。
歌い手も聞き手も、どこかもやもやしてしまう。

「茶摘み」だからこそ、情景描写に身を任せられるのだと思う。
作詞者不詳とのことだが、もったいないもいいところだ。

 

・「あかねだすきに菅(すげ)の笠」

すごいポイント1

「あかねだすき」
これまで歌詞に出てきた色は、若葉の薄緑だけである。
ここで「あかね」を出している。
急に場面がカラフルになる。
「紺の着物」とかではこうはいかない

 

すごいポイント2

「あかねだすきに菅(すげ)の笠」
この順番なのが偉い。

「菅(すげ)の笠にあかねだすき」
これでは歯切れが悪い。

「さ」と違い、「き」では締まらない。
恐らく、「さ」と大口を開けて発音できるのが良いのだと思う。

それに、「す」から始まるのも気持ち悪い。
やはり「あ」と大口を開けて発音してから「さ」で気持ちよく歌いきれるのだと思う。

 

・おわりに

以上、「茶摘み」の歌詞ってすごくね?という話でした。
リズム感は無視して、情景描写をマネしておしまいにしたいと思う。

 

秋の夜長ももうすぐ終わる
月の明かりが小川を映す
木々の葉っぱは、ひらひらおちる
光る水面に茜さす

 

・・・ムズイわ。
最後の「あかねだすきに菅(すげ)の笠」。すげえよ。
再現できねえわ